吊りかけ駆動の音を聞いて育った。
少年は大きくて動くものに興味を抱く。
乗り物、ロボット、恐竜。例に漏れずぼくも鉄道に興味を示した。
鉄道を撮るために自転車と写真を始めた。
思春期の体力である。それはもうそこら中に出かけた。
自転車ではサイクリングに目覚めて旅を学び、バイクでツーリングからラリーへ。
写真では写研を通じて作品への意識が変わり、集団心理、人の内面へと作風が変遷する。
鉄道も、走る様子が好きだったところから、車両の設計思想、社会に与えた影響に関心が芽生えた。
最高速度や所要時間のみの注目から、モータやエンジンの出力特性や減速機の構成による運転特性、車体形状や構造による外力への思想、車両の登場による収益や地域経済・人口・生活様式の変化へ。最近では、北海道新幹線 札幌延伸に伴う並行在来線の存廃討論に参画するなど、多くの視点に興味を示すようになった。
どれだけ撮り鉄から離れても、毎年夏を過ぎると、錆びた腕を研ぐように鉄道を撮る。
鉄道は、工業製品である。
工業製品であるゆえに、時代を象徴する技術が注がれる。Suica、リニア、車内広告ディスプレイ。燃料電池、蓄電池、シリーズハイブリッドなど、頻繁に変更できない規模の製品だけに新技術の登場はいつも画期的だ。
鉄道は、インフラである。
東海道線と信越線が国防を支えた。新幹線が日本を縮めた。定時性と大量輸送に長けるからこそ、社会の血管を担っていると思う。近代日本の発展は鉄道の貢献と言っても過言ではないだろう。
2022年10月14日。日本の鉄道は、150周年を迎える。
当たり前に走る鉄道にも誕生日がある。これを祝いたい。
「電車の運転士になりたい」
いろいろ描いた将来の夢に対して、今や流体工学屋である。
すべては鉄道から始まった。
人生に起点を与えてくれた特別な存在の、特別な日。
VVVFインバータの音を聞きながら、これを祝いたい。
鉄道開業150周年、誠におめでとうございます。