こんばんは。けーごです。
2021-2022シーズンからスキーを始めました。冬の楽しみが欲しいのと、冬の百名山を見たいから。
スキーを楽しむためには、滑り方を理解する必要があります。感覚論もありますが、反復練習を行うには再現性のある仮説に基づくのが堅実です。そこで、この2シーズンの滑走から体得した滑り方の言語化を試みます。
あくまで自分なりに力学に基づいて考えたことを記しています。書籍による裏付けは取っていないので、誤った理解・表現は適宜修正していきます。
この記事は、スキーの運動を力学に基づいて定性的に理解し、自身の復習に活用することを目的にしています。
❏ スキーの原理
スキーは、斜面を滑走する手段です。リフトや登山によって得た位置エネルギーを、滑走によって運動エネルギーに変換します。斜面上の物体の運動と捉えれば良さそうです。滑走すればするほど速度が大きくなるので、平坦でアクセル踏みっぱなしの車と置き換えて考えてもいいですね。
実際には、加速し続けるわけではありません。スキーを楽しむためには、速度をコントロールします。雪とスキー板の間の力に着目すれば、スキーの運動を考えられそうです。以下の加速方向と減速方向の力がつりあったとき、速度を一定にして滑れます。
加速方向に加わる力: 斜面に平行な重力
減速方向に加わる力: 雪とスキー板の摩擦力、人間の抗力(空気抵抗)
スキー板をまっすぐにすると、ぐんぐん加速して空気抵抗が大きくなります。一方で、ハの字にしたボーゲンで滑ると、雪とスキー板の摩擦力が大きくなり、遅いままでも滑れます。つまり、減速方向に加わる力には摩擦力と抗力の2種類があり、その配分はスキー板間の角度でコントロールできます。
補足 雪の物性
ここで、摩擦力 μmgcosθ と表現しなかったのは、垂直応力に対して雪のせん断強度が変わり、摩擦力が一定にならないと考えたためです。つまり、雪が踏み固められたり、削れることを考えました。
雪は氷結した水蒸気で、粉と捉えることができます。ある粉体の特性では、大きな力を加えると硬くなります。たしかに、雪は踏むと固まります。これは荷重印加によって瞬間的に雪が溶けて凍り、せん断強度が増加するためと考えます。
荷重の加え方を工夫すれば(板を寝かせて接地面積を減らす、高速で旋回して遠心力を高める)、高い垂直抗力を得られるかも?と考え始めました。系全体なら力のつりあい、雪とスキー板なら応力を考えるのが良さそうです。
スキーの原理
・位置エネルギーを消費する運動
・摩擦力と抗力の大きさと配分を制御して滑る
❏ スキーの運動
ゲレンデは直線ばかりではありません。スキーを楽しむためには、曲がる必要があります。ここでは、走る・曲がる・止まるのうち、曲がるについて考えます。
スキー板にはハンドルがないので、曲がるためにはヨー方向の角加速度が必要です。つまり、人間を軸に回転するスピンをしなければいけません。
① ボーゲンの場合
まず、ボーゲンに着目します。
ボーゲンでは、コーナー外側の足を踏み込むとその反対方向に旋回します。上図では、右足を踏み込むと左へ曲がります。直感的には、右足を踏み込むと摩擦力が増えて、右側が減速して右へ曲がりそうです。実際は逆でした。なぜでしょう。
これは、スキー板の接地面が雪面に平行ではなく、傾いているためです。足の構造上そうなります。したがって、スキー板が受ける雪面からの垂直抗力が進行方向に対してせん断成分を持つために、垂直抗力を増やせば向心力を与えることができます。極端な話、内足を浮かせて外足だけを踏めば曲がっていきます。
これでヨー方向の角加速度を与えられ、曲がることができます。車で言うと、荷重移動してLSD利かせてヨーを出す動きです。
ボーゲンの旋回
・スキー板の受ける垂直抗力がヨーを生む
② パラレルの場合
パラレルの場合、複数の曲がり方があると気づきました。
まず、せん断方向の垂直抗力を両足から受けて曲がる方法。ボーゲンと同じく向心力を受けて曲がることができます。板に角度を与えるには、ひねる動作が必要です。つまり、ヨーを与えるきっかけは上体の捻転による反作用です。
次に、スキー板の後ろ部分をコーナーの外側へ踏み込んでずらして曲がる方法。後ろ側に最大静止摩擦力を超える垂直抗力を与えれば、勝手に遠心力で外側へ滑り出し、角度をつけて曲がっていきます。ドリフトと同じ考え方です。
ここで、スキーにもスリップアングルを活かした曲がり方があることに気づきました。
スキーでは、板の向く角度と進行方向が一致しません。これは、直進する力(慣性力+斜面成分の重力)が働くためです。車も同じように、ハンドルを切ってもタイヤの向きと平行に進まず、少し外側へ進もうとします。車の場合は、スリップアングルが12°程度つくと最もグリップが高くなることが知られています。
スリップアングルを考えて滑れば、挙動やラインを予測できるようになりました。
基本は、スキー板の真ん中に乗って前後の荷重分布を均等にし、雪の反力を受ける点を重心に近づけることが重要です。挙動を予測し、雪面の変化に適応しやすくなります。
また、スキー板の間隔を狭くしていくとヨーを制御しやすくなりました。これも雪の反力を受ける点を重心に近づけるためです。踏込み・遠心力によって得られたせん断方向の垂直抗力がヨーに寄与しやすくなります。
パラレルの旋回
・上体の捻転の反作用でヨーを生む
・スリップアングルを与えて旋回する
・荷重分布の変化とスタンスによってヨーを制御できる
③ カービングの場合
これまでは、力の加え方によってヨーを制御する方法を考えてきました。
次に、カービングのような、くびれた・たわみのあるスキー板を考えます。カービングは、シュプールが面ではなく線で描かれる滑り方です。カービングでは、ボーゲンやパラレルよりも圧倒的に速いにも関わらず素早く旋回することができます。
スキー板の形状に特徴があると考えました。
まず、旋回時の接地面の変化を考えます。直進時には、接地面は板の形状に概ね一致するでしょう。
次に、旋回するために板を傾けます。傾けるにつれて板が雪に食い込み、接地面積が減ります。板の形状によって、ある角度で板中央部が接地しなくなります。このとき、両端部で荷重を与えるために、雪は踏み固められ、反力を生みます。反力を受けない板中央部は、慣性によって外側へ進もうとします。すると、板はたわみ始めます。板中央部が接地するまでたわみます。板中央部が接地すると、雪面に対して円弧を形成し、一本の線になったシュプールを生みます。この円弧がヨーを生み、素早いターンを実現します。
さらに大きなヨーを生むためには、次のアプローチが考えられます。
① 踏み込んで、板中央部が接地するまでの時間を短くする
② 板のたわみを大きくする
ここで、板のたわみが円弧の曲率半径に影響することに改めて気づきました。
カービングでは、くびれの円弧が同一平面上になるまで板がたわむことで旋回できます。なら、均一にたわまなければ綺麗な円弧はできないのでは?つまり、板の断面二次モーメントが長さ方向で同じと考えました。たしかに、カービングスキー板の両端は幅広くて薄く、板の中央部は幅狭くて厚い。板のくびれた形状の合理的な理由が設計意図にあるはずなので、この仮説であればカービングの運動を説明できると考えています。
カービングの旋回
・両端部の反力と中央部の遠心力で円弧を形成し、ヨーを生む
・たわみの与え方は荷重と形状で決まる
❏ あとがき
スキーの運動を力学に基づいて考え、自身のメモ用に言語化を試みました。基礎スキー出身の人にこれらの考えを共有したところ、いい反応をもらいました。仮説を定量的に立証できればいいのですが、定性的な理解なために感覚で習得していくしかありません。今後もこのメモ書きを元にスキーを楽しみます。
また、ここに記していない滑り方もあります。板の反力を使って加速する滑り方、コブの滑り方など、自分がまだできないものについては、引続き考察していきます。
ただ位置エネルギーを上げ下げする遊びが、こんなにもおもしろいとは。みなさんもゲレンデで遊びましょう。
では。