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富士24時間レースを観戦しました

こんばんは。けーごです。

 

富士24時間レースを観戦しました。

 

モータースポーツ最高峰に、24時間レースがあります。

ルマン、ニュルブルクリンク、スパ、デイトナが有名です。丸一日かけて周回数の多さを競います。

このような耐久レースの発端は、自動車の優位性の証明にあります。自動車の優位性を示して以来、動力源の優位性、ひいてはメーカーの技術力を競うようになりました。観客は、優勝メーカーに対して、丈夫で高性能な車を生産できるイメージを持つためです。したがって、自動車の歴史は耐久レースとともにあります。

多くの自動車メーカーが存在する日本にも、富士24時間があります。100年に一度の大変革時代と叫ばれる昨今の自動車業界において、この富士24時間が持つ意味は大きいはずです。

 

対地球温暖化の具体策として、カーボンニュートラルが提唱されて久しく経ちます。化石燃料の生産・消費の一辺倒だった時代から、自動車メーカーが転換を図ろうとしています。

日本の自動車メーカーもカーボンニュートラル実現を目的に、様々な手法で開発に取り組んでいます。スーパー耐久には、その受け皿としてST-Qクラスが設けられています。

ST-Qクラスは、自動車メーカーの開発車両のみが参戦可能で、総合順位にポイントがつきません。各車はデータ取得を目標として参戦します。この富士24時間から、「S耐ワイガヤクラブ」という参戦メーカーによるワーキンググループが発足されました。今まさに、一枚岩になろうとしています。

 

日本の未来、地球の未来に向けて賢明に取り組む姿を応援するために、富士24時間を観戦しに行きました。

 

www.as-web.jp

 

2023/5/27 富士スピードウェイ

07:00

SUPER GT以外で富士に行くのは初めて。イベントブースはお祭りの雰囲気です。GTのような賑わいよりも落ち着いていて、回りやすいです。

 

展示車両が豪華。WRC2022チャンピオンのロバンペラがドリフト大会で優勝したカローラや、IMSAで伝説になったZも。

 

ルマン24時間を控えたトヨタ。今年、ルマンは第1回大会から100年経ちます。記念大会に向けて、世界耐久選手権には多くの自動車メーカーが復帰してきました。辛酸を舐め続けてきたトヨタには、ぜひ真価を発揮していただきたい。おいしいところだけを食べに来た人らに勝たせてたまるか。勝ってくれ。

 

 

09:00 カーボンニュートラル科学館

カーボンニュートラルの取組みを周知するために、ワイガヤクラブのみならず多くの協力会社がブースを出展していました。

toyotagazooracing.com

 

カーボンニュートラルとは、温室効果ガス排出量を吸収量で相殺することです。

電気・燃料など、エネルギーの生産にCO2を消費することで、ひとつの工業製品の使用過程でCO2排出量が増えないことなどが挙げられます。

ondankataisaku.env.go.jp

 

1 水素

代替燃料のひとつに、水素が注目されています。

① 燃料電池車

ミライに代表されるように、燃料電池車(FCV - Fuel Cell Vehicle)の活用が提唱されています。水の電気分解の逆反応で、水素と酸素を反応させて生じる電流でモータを駆動させる車です。

どうして車が水素で走るの?|水素エネルギーの基礎知識 | 株式会社ENEOS 水素サプライ&サービス

 

② 水素燃料車

水素を燃料に内燃機関を動かすもの。エンジン形式は不問で、オットーサイクル、ディーゼルサイクル問わず、ロータリーでも駆動します。原理的には水蒸気のみが排出されます。

www.yanmar.com

 

ミライに搭載されている燃料電池が展示されていました。技術部門の方がいたので、いくつか質問できました。

爆発の対策: 発火源から遠ざける。万が一水素が漏れても上方へ拡散するため、熱源から遠ざければ爆発しない(爆発するには体積濃度4%以上が必要)

設計の流用: ミライの燃料電池の数を増やして活用。乗用車は1個、大型車は2個。航続距離に応じて使い分ける。

燃費の問題: たしかに体積エネルギー密度はガソリンに比べて小さい。FCVはEVの一種であるため、燃費は減速比とモータの設計で対応できる。

事業の問題: 鶏が先か、卵が先か。

 

リスクアセスメント大変だっただろうな、と質疑しながら感じました。詳細な質問もあとから思いついてきましたが、個人的な勉強として書籍当たろうと思います。

 

ミライの水素タンクを活用した、携行水素ステーション事業もありました。ここでも技術部門の方がいて、快く回答いただきました。

タンク強度: 700気圧で水素を充填。材料はFRP(芯材が何かは質問し損ねました)

法規の問題: ミライのタンクは、自動車の中であれば法規を満たしている。携行水素ステーションでは、ミライのタンクの流用でも、タンク単体の携行が法規上認められていない。実用性・安全性の立証が要求されている。近年、政府は法整備に前向きな姿勢になったが、安全性の立証が依然必要。

事業の問題: 現状、水素の燃料電池事業は、政府の補助金によって成り立っている。大手メーカーのCSRの一環として活用していただかないとスケールメリットが出てこない。とはいえ事業に取り組む意義はある。鶏が先か、卵が先か。

燃料電池自動車 - Wikipedia

 

法整備の課題は大きそうですね。リアルな声でした。

 

水素を活用した体験学習ブースがありました。

・エアロバイクで水を電気分解させ、水素を得る

・水素を使って燃料電池ショベルカーを運転する

・ショベルカーでボールを移動できたら景品獲得

 

30秒全力でエアロバイクを漕ぐ。生成した体積が表示され、手触り感があります。一人での最高記録を出しました。しばらく酸欠になりました。

 

見ていて面白い。自分のがんばりを無駄にしたくない一心で、みな真剣。

 

岩谷産業のブースでは、液体水素供給のパイプラインの説明をしていただきました。

液化利点: 気体に比べて体積が1/800。タンク容量を小型化しながらも航続距離が向上。

温度管理: 液体水素は-253℃以下。真空・断熱材による断熱が重要。

圧力管理: 安全弁で圧力を制御。輻射・熱伝導によって昇圧されるが、運転中であれば水素の消費による減圧が勝る。

 

他にも、現実的な問題や実用例の話題で盛り上がり、多くの知見を教えていただきました。ありがとうございました。

 

水素を作って使うことの大変さを知った上で、電源に用いられた水素供給車を見ると工業の偉大さを実感します。

 

2 バイオ燃料

マツダのブースでは、ヨーグレナ社協力で精製された、藻で生成するバイオ燃料「サステオ」について紹介していました。この燃料を使ってマツダ3が参戦しています。

背景: 従来、バイオ燃料は廃食油やトウモロコシが主流。ただ、生産量と工業での消費量に大きな差がある。航空機業界がバイオ燃料を活用するため、廃食油の価格が高騰している課題がある。

手段: 藻にCO2と日光を与えて繁殖させ、藻からバイオ燃料を得る

利点: 日光があればどこでも生成できる

組成: 軽油とほぼ同じ。既存のディーゼル車にそのまま使える

課題: 300円/L。生産能力

展望: 事業拡大に向けて、プラント増設

blog.mazda.com

 

 

最も短期的に成果を上げられるカーボンニュートラルに思います。工場の既存フォークリフトの燃料に使うだけでOKですし。市場が安定するまでは目先のコストは上昇するので、大手でなければ厳しいかもしれません。

 

カーボンニュートラル科学館でたくさん勉強させてもらいました。この取組み、頭が上がりませんね。

 

 

12:00

観戦に向けて移動します。SUPER GTと違い、テントの数が凄まじく多いです。自分も持ってこればよかったな。

 

15:00 スタート

各クラス、クリーンにスタートしました。がんばれ!

 

液体水素のカローラはモリゾーでスタートのよう。GRカローラ欲しくなりますね。

 

シビック TypeRは、ホンダ有志チームとHRCワークスに分かれています。

HRCはカーボンニュートラル燃料を用いたもの。燃料精製の過程でCO2を消費することで相殺する燃料です。合成燃料と呼ばれています。

 

Aコーナーは、ドライバーの腕がよくわかるコーナーに思います。

ST-5クラスのFITなど、FF駆動はヨーを出すために右後輪に荷重を集中させて滑らせています。小排気量FFの走り方でこれが最も速いと考えていたので、見れて感動しました。後輪は硬めの足なせいで、内側の縁石をまたぐと強い跳ねを繰り返していました。

 

スーパー耐久では、全8クラスあります。AMG GT3からFITまで、凄まじい速度差があります。すぐに混走が始まり、目まぐるしく追越しが発生しています。

gazoo.com

 

 

ここでしか見ないKTMの車。いい形してます。

 

初めはシビックと競っていたGR86も、次第に前へ。操舵は前、駆動は後。FRの良さが光っています。

 

夕方、飲んでます。点心おいしかったなー

 

日没前、ブースも閉じられて、夜の支度が始まります。

 

19:00

耐久らしくなってきました。

 

 

 

自光式ゼッケンは8万円するんだとか。

 

ST-Qクラスの各車は順調に周回を重ねています。

 

 

たまやー!

 

 

夜専用の屋台も出ています。焼きそばをいただきました。

 

 

GT3、GT4マシンは速いため、黄色ライトで区別しています。速さは雲泥の差です。

 

 

富士24時間には、メンテナンスタイムと呼ばれる長時間ピットがあります。ピット作業時間の競争によって不安全を誘発しないために、20時間以内に10分以上のピット作業を1回行うことが義務づけられています。ブレーキロータ交換など、普段のレースでは見れないシーンが見れます。24時間の醍醐味です。

 

精力的に周回を重ねます。

 

23:00

バルブも久しぶりにします。

 

車も選手もがんばっているのに、自分だけ寝ていいのか葛藤がありました。補給と防寒着を取りに車へ戻ったときに1時間仮眠。1時以降はまた周遊。

 

ブレーキ中の流し撮りは高い技術が必要でした。

 

03:45

クラッシュによるガードレール修復のため、1時間強のレース中断が起こりました。猛進してきた車も人もひと休み。重機の音と、場内実況の激励が静まり返ったサーキットにこだまします。

 

夜明け前。

 

5時に再開。眠気が増す時間帯ですが、事故なく完走してほしい。

 

総合優勝を争うST-Xクラスでは、混戦が続いています。

 

これまでシビックは順調そうです。たとえスリックタイヤを履いていても合成燃料ではまだガソリンには勝てないようですね。開発あるのみ。

 

100Rでテントは非常に良さそうです。ここで観戦したいな。

 

 

登りセクション。FFには難しいコーナーです。

 

シケイン入口の処理は見学して勉強になります。脱出速度を意識したライン取りが必要ですね。

 

朝霧も晴れて富士山がよく見えます。

 

08:00

課金するとコース上をジェットヘリで1周回れるそうなので、乗ってみました。

202号車KCMGのデザイナーと相席。前週はニュルブルクリンク24時間でスープラGT4を駆り、クラス2位を達成しました。今後の計画を聞いて活躍が楽しみです。

 

上空から見る車は、トミカで遊んでいるようです。

富士はコース幅が広いですが、上空からはそれほど広くは感じなく不思議でした。

 

10:00 富士モータースポーツ博物館

金曜日にオープンした博物館。モータースポーツを軸に、自動車の歴史を振り返る博物館。展示資料や展示車両が本気で嬉しかったです。ミッレ・ミリアなど、ラリーの歴史を語るには欠かせないレースなど、貴重な資料がたくさん展示されています。おすすめです。

 

3階のカフェからは最終コーナーを観戦できます。

 

22時間以上順調に周回してきたシビックから黒煙が上がり、スロー走行。過給か排気か、排気経路中の故障でしょうか。低速で周回するうちにオレンジボールフラッグ(車両不整備による走行中止の警告)が振られてピットへ。ひとつひとつの故障が次に活きるはずです。

 

残り90分。2位の14号車が1周半先の1位の819号車を猛追。14号車のドライバーは蒲生選手。GT300をAMGでチャンピオン獲得しています。

1周4.5秒差で詰めていて、計算上では残り20分で追いつきそうでした。本当に追いつくのか見守る中、残り23分で逆転。プロの凄さを見せつけます。

 

15:00

24時間後。大荒れの夜を乗り越え、大逆転の総合優勝。おめでとうございました!

 

チェッカーが振られると一斉にガレージからチームメンバーが溢れ出て祝福します。24時間走り続けることの困難さはツーリングラリーで理解しているので、その凄さを多少なりとも推し量る。心に来るものがありました。

 

ルーキーレーシングの3台は無事に完走。カーボンニュートラル燃料で走るGR86も好成績、世界初の液体水素を用いた水素エンジンカローラも完走、総合優勝狙って勝ったAMG。国内屈指のトップチームになりつつありますし、布陣を見ても納得の結果です。

FORD GTを思い出すトライアングル。これからも日本を率いていく決意めいたパレードにも受け取れました。誠におめでとうございました!

 

 

youtu.be

 

 

24時間でしか得られない知見があります。

24時間を積み重ねてしか得られない知見があります。

世界に数レースしかない24時間レース。そのひとつの軌跡を目の当たりにしたことは、いちモータースポーツファンとして、いち技術者として、誇りにしたいと思いました。

 

参戦された皆様、お疲れ様でした。誠におめでとうございました。

 

では。