東海道を歩いて花見をした日の夜のこと。
「ホタルイカをすくいたいんだよね」
ああ、新しい扉に出会ってしまった。全く知らないがおもしろそうな香りが漂う、心を躍らす扉に出会ってしまった。なに?ホタルイカ?富山だっけか?どうすればいいんだ?
おもむろに友人がスマホを開けば、なにやらホタルイカすくいの情報を共有するオープンチャットが巷にはあるらしく、先人の知恵や現地のリポートが活気よく画面を飛び交っていた。便利な世の中だ。
私は食材を獲る経験が米以外になく、山菜収集や釣りをしたことがない。どんな光景になるのか想像もつかないが、どうやら複数の条件が重ならないとホタルイカは捕れないようだ。
・3月~5月の新月近辺であること
・満潮前後の時間帯であること
・数日雨が降っていないこと
・凪であること
天候に恵まれなければ難しいことがうかがえる。捕り方は、船の漁か浜辺ですくうからしい。浜辺ですくうには、ウェーダーという防水オーバーオールを着て海へ入るようだ。レンコン畑で着ているアレか。
次の新月が4/27ということで、4/26〜27の夜に照準を定めた。
GW初日なため、海岸の駐車場は混み合うと予想し、昼前には富山湾に着いて日中は近隣を散策することにした。みなで自転車を持ち合って、高岡や氷見を巡った。氷見の回転寿司のおいしさが凄まじく、すでに優勝の気分。
海岸に戻ってホタルイカすくいの準備を始めよう。捕り方は、浜辺に来たホタルイカを網ですくい、カゴに入れる。カゴはなんでもいいが、100均カゴにペットボトルで浮き輪をつけるとカゴが沈まずに済む。なるほど、知恵だな~。
満潮が午前2時なため、しばらく時間がある。というわけで、時間つぶしに釣りをしよう。光に集まる小鮎をすくってみたりした。この旅で少なくともボウズではなくなったので、食材を調達する広い目的は達成できた。よしよし。
不定期で営業している夜鍋ラーメンがこの日はやっていたので、夜食代わりにいただいた。
チャーシューがえぐいうまさ!丁寧につくられたスープも素晴らしい。またもや優勝してしまい、甲子園予選も始まらぬ中で早くも二連覇してしまった。
食べている間に、地元の方が「浜辺で適当にすくったらもうホタルイカいた」と持ってきていた。ゆでたてをいただいたらもうぷりっぷり。こんなに柔らかいんだ!
地元の方はウェーダーを着に帰るとのことで、我々もお暇してホタルイカすくいを始めることにした。
浜辺に行くと、宇宙交信でもしてるのかと聞きたくなるほど海上を光がうようよしていた。ご覧ください、これが春の風物詩、イカ釣り人間の遡上です。
こんな感じでヘッドライトで照らしながらホタルイカを探し続ける。私はラリー中の夜間整備用に購入した爆光ヘッドライトで挑もう。
ただ場所の差が大きいのか、駐車していたこの砂浜にはまだいなかった。先ほど釣りをした場所あたりまで移動して、ホタルイカ探しの旅に出た。
やはり場所の差はあり、入り始めて15分でゲット!ぽけ~と漂うホタルイカをすくうと、急に焦って光って鳴き出し色も変わった。いや遅すぎるやろ、もっとはよ気づかんかい。イカって賢い魚だったと思うが、ホタルイカはそうでもないのだろうか。こんなに光をまき散らした人がうじゃうじゃいるのに、流れるプールに浮かぶがごとく浅瀬を漂っていて、危機感皆無を通り越してマントル突き刺さってるとしか思えない。とはいえ少なくとも1杯は捕れて嬉しい。
3人で捕り進めること2時間、30杯は捕れていそうだ。それなりのおかずにはなるだろう。ところが、私のウェーダーには小穴が開いていたらしく、足への浸水が激しくなってきた。ウェーダーの下にカッパを着て、防水靴下も履いていたがそれでも浸水している。GWの富山湾とはいえ、現地の気温は3℃。さすがに風邪を引きかねないので、後半戦は友人に託して早上がりさせてもらった。
3時半まで友人は捕り続け、4時間以上ホタルイカを追いかけていた。その数94杯。初めてにしては上出来だろう。オープンチャットでは、入善で大量に湧いて、30分で100杯以上捕った人もいるようだ。一口に富山湾と言っても場所の差が激しい。氷見や糸魚川ではそもそも捕れないと言うので、海流の影響もあるのかもしれない。不思議なものだ。
立山連峰の北端、親不知へ続く稜線の朝焼けを見て、朝風呂と仮眠を摂り、白川郷へ寄り道して帰ることにした。
ホタルイカといえば沖漬けだが、衛生上、家庭で作るのは難しいようだ。なので、沖漬けだけはお土産で買い、獲物はペペロンチーノに入れていただいた。塩味があり、大変おいしかった。自分で捕ったものをおいしくいただくのが、釣りのご褒美なのだろう。新しい遊びを知った。ごちそうさまでした。
ホタルイカすくいはやはり人気で、満潮が近くなると、信じられない人数が浜辺にいた。関西や関東のナンバーもざらにいる。同志で満たされる港町はさながらお祭りで、見知らぬ人とも会話が弾む、独特の雰囲気がおもしろかった。
ホタルイカを待ちわびるのかと思えば、探して探して捕りまくった。徒然なるまま?いやいや、釣れ釣れイカ。貴重な経験をした。
では。