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砂を追う

 

Je vous emmène aux portes de I'Aventure... mais c'est à vous de défier le sort. - Thierry Sabine

私が冒険の扉を示す。開けるのは君だ。望むなら連れて行こう。

 

 

1 冒険の扉を見る

1-1 扉を見る

パジェロが砂漠を駆ける。

小学2年生、テレビに映る砂煙を眺めていた。彼らが何をしているのかを知るのは、ずっと後だった。

 

大学4回生、原付で鯖寿司を食べに行ったのが楽しくてバイクを買った。日照時間内に本州縦断して夕焼けの砂浜を走るSSTRと呼ばれるイベントのブログ記事に心が躍った。

バイクにもラリーがあるらしい。それはコマ図という巻物の略地図に従って走るらしい。あのパジェロがいたパリダカールラリーにもバイク部門があるのか。あの砂漠の中をコマ図で走るのか。そのパリダカを完走した人がSSTRを開催しているのか。出てみよう。

 

修士1回生、初めてのSSTRは、見よう見まねで書いた自分のコマ図で走った。

初見の300kmなど、本当に走り切れるのだろうか。でも怖がっていても誰も救ってくれない。走らなければ始まらないじゃないか。

 

鼓舞して走る。知らない日本を知る。千里浜に泣く自分がいる。ああ、冒険は、畏れの克服か。

 

ラリーって、なんだろう。

 

これは、ラリーレイドにまつわる一連の記録である。

 

 

目次

 

1-2 扉を知る

ラリーを勉強しよう。ラリーには分類がある。パリダカはラリーレイドに、SSTRはツーリングラリーに属する。

競技ラリーでは、ルートのナビゲーションにも種類があるようだ。WRCなどは、選手独自の文法で記述したペースノートを用意する。一方、コマ図はラリーレイドで支給されるらしい。

コマ図には、走行距離・区間距離・略図・その先の情報が記される。左から順に、過去・現在・未来の時系列で理解できる。舗装路は二本線、未舗装路は一本線。進路は矢印で示され、進路外は二重線で区別。橋や標識の目印を付記するようだ。コマ図は、地名の記されないGoogleナビと捉えられる。

 

1-3 扉へ導かれる

コマ図は、添乗員のいない旅のようだ。コマ図を使えば、滋賀県の素晴らしい景色を案内できるだろう。琵琶湖だけじゃない滋賀県の良さを伝えたい。コンセプトを決め、好きな景色を好きな道順で綴っては出した。

イベントを開くのもおもしろそうだ。せっかくなら競技性が欲しい。だが、公道で速さを競うのは難しい。時間の正確さを競うのはできそうだ。これは全員に平等な時間を介して自分と対峙する。スプリントラリーもオンタイムラリーも、精神性は同じであろう。切磋琢磨する未来はあるはずだ。これなら、自分もバイク文化の発展に貢献できるかもしれない。

修士1回生、コマ図を用いて走行時間管理能力を競うTRIAL RALLYを立ち上げた。

2人が出てくれた。成功を確信した。でも、私は速さを競うラリーレイドに出たことがない。

 

国内ラリーレイド大会のスタッフが愛知でコマ練というイベントをやってるらしい。出てみれば、ラリーの思い出を語らう人らに口説かれた。

Tour de Blueisland - TBIという、GWの四国を1週間走るラリーが日本最高峰らしい。

 

冒険は、自己対峙だった。そして、畏れは未知だからこそ抱くもの。知らない四国を、知らないラリーレイドを味わってみたい。最大限の希望と最大限の恐怖を携えて、冒険の扉を開けてみたい。

TBIに、出てみよう。

 

1-4 扉に立つ

元来決めていたこととして、30歳までにやりたいことをやり切る。自分を磨く利己の時期を経なければ、家族や社会を牽く利他に至れないと思うから。利己、そして利他。30歳までに自我と利己を追求しきるためには冒険をすべきと悟った。

SSTRをきっかけに、知らない日本を知りたくなった。自分なりの冒険をしたくなった。バイクでも、自動車でも、自転車でも、日本中を旅した。四国を残して。

自転車で本州横断した。また千里浜に泣く自分がいた。もう、旅で泣くまい。

残る冒険は、TBIだけだ。

 

 

2 冒険の扉に手をかける

日本最高峰である。自分への挑戦である。TBIに対して目的と目標を定めた。

目的:ライダーの集大成
目標:総合順位 上位半分以内
手段:サポートなしの個人参戦

 

上位半分以内を達成するためには完走が必須である。やれることは全部やる。車両にも、人間にも。系統図法を用いて対策を試みた。

初めての競技ラリーは一度しかない。この一度をライダー人生の集大成と捉えたい。

ラリーは、冒険だ。冒険は、未知への探究だ。

未知への恐怖があるからこそ気持ちも乗るものだろう。同じものを繰り返したくない。いつまでも固執したくない。したがって、30歳以降の参戦または二度目の競技ラリーの参戦は考えていない。

The 35th TOUR DE BLUEISLAND 2023

 

2-1 車両

HONDA CRF250 RALLY(MD44 MY2018)をTBIの競技規則に適合させる必要がある。抽出した対策を分類してここに記録する。

走行に必要な装備: マップホルダ、ラリーコンピュータ、ビッグタンク、補助灯
出場に必要な装備: 携行工具、予備部品、ダッフルバッグ、ライディングギア
出場に必要な整備: 部品交換(クラッチ、ハブベアリング、スプロケット、チェーン、ブレーキパッド)
成績に必要な装備: タイヤ(VeeRubber VRM211F、VRM175)

 

2-1-1 走行に必要な装備

レギュレーションで装着を義務づけられた装備の他に、競技を円滑に進める装備は必要に応じて購入した。

 

マップホルダは、sa.kio電動マップホルダー02を採用した。

電源はACCから。コマ図巻取り用のトグルスイッチはグリップ下に。親指で押せば送り、人差し指で押せば戻る要領だ。

ハニカム構造のプラ段による驚異的な軽さが売り。カラーに固定された板にマジックテープでマップホルダを固定する。軽さゆえに驚くほど振動しない。ラムマウント固定が標準だが、細かな要望にも応えていただける。

 

ビバーク内でエンジンをかけられない環境下や雨天でバイクから取外してコマ図を巻けるように、外付け9V電池で操作できる配線や駆動用の予備ベルトもいただいた。

 

取付位置・角度には苦心した。スタンディング・シッティングでの可読性、日光の反射、周囲の映り込み、前方の視認性、スタンディング時のヘルメットとの空間、フルステアでの隙間。何度も試走して3回位置を変えて決定した。

 

ラリーコンピュータは、rc-7とN-SYSTEMの2系統を用意した。

 

センサーは、マグネットの逆起電力によるパルス波を取得する原理である。パルス波周期とタイヤ周長から速度と距離を算出する仕組みだ。自転車のサイクルコンピューターと同じである。相違点は、ラリーコンピュータには距離や周長を随時編集が可能なところ。コマ図上の1kmと自車の1kmが一致する保証がないために必要だ。ラリーコンピュータはラリーの必需品と言っていいだろう。

 

rc-7用マグネットはブレーキロータ部に、N-SYSTEM用マグネットはハブに設けた。センサー線とリモコン線は2本ずつ予備を用意し、それでも故障したときに備えて補修用の端子を準備した。

 

センサー配線には苦労した。サスペンションのストロークによる繰返しの屈曲で断線が多発したためだ。サスペンションのストロークとハンドルの回転を許容するために、最終的にクラッチワイヤーとブレーキラインに沿って引回し、ステム部に集約させた。整備性と見た目を両立させたければ、ステム部にハブを設け、ライトステー内部にハーネスを引回すといいだろう。

 

ラリーコンピュータのスイッチは、ハンドルから手を離さずに操作できなければならない。rc-7はミラー共締め、N-SYSTEMは専用ステーで引回した。

レギュレーション上では純正メーターが視認できることが定められているが、ヒアリングによれば、ラリーコンピュータ上で速度表示されていれば問題ないそうだ。したがって、純正メーターが通常の姿勢で視認できなくても失格にはならない。

 

ビッグタンクは、IMS 3.5ガロンタンクを購入した。

山中を走るラリーでは、ガソリンスタンドに参加者が集中するために給油待ちが長くなる。ペースよく走れていても意図しない待機時間が生じては走行管理に影響する。そこで、航続距離を増やして、給油待ちしそうなスタンドを通過してこの問題を回避する。レギュレーション上では150km以上の航続距離を求められているが、それ以上に航続距離がある分には問題ない。損失を減らしてビバークに早く帰るほうが賢明であろう。

 

補助灯は、Baja Designs S2 Pro ワイドコーナリングを購入した。

TBIでは夜も林道を走る。CRF250 RALLYのライトはフレームマウントのため、舵角の大きなコーナーでは先が見えにくい。そこで、補助灯をフォーク外向きに装着して広角の視野を確保した。レギュレーション上では、ライト2ユニットまで かつ 水平より下向きの光軸であれば装着が認められる。給電はバッテリー直結。リレーユニットが端子についていたのでユニットへの心配もいらない。

 

2-1-2 出場に必要な装備

ラリーでは、大会スタッフに支援を受けると失格となる。

競技者同士の共助が重要であるが、そもそも競技者自身の自助が必須である。したがって、レギュレーション上で義務づけられた備品以外にも、想定される状況に対応できる備品は携行しなければならない。走行の維持に関わる備品はリアバッグに、生命の維持に関わる備品はリュックに分けて携行した。

 

リアバッグ

交換系チューブ交換対応(21インチ ウルトラヘビー)、レバー交換対応
予備系:パンク修理キット、パテ、液体ガスケット、1L携行缶
電装系ブースター、テスター
救出系スリングベルトロープカラビナ滑車

 

リュック

体調維持:雨具、ハイドレーションパック携行食(スポーツ用カステラ)
生命維持救急箱蒸着シートサイリウムダクトテープ(応急修理・止血用)
競技維持:筆記用具、コンパス、ライトポンプ

 

これらとは別に、ダッフルバッグを準備した。

想定される故障に対応できる予備部品も準備が必要である。加えて、大会期間中にテント泊がある。テントの他に食器類の携行も必要である。レギュレーション上では、これらすべてを携行しても問題ないが、ダッフルバッグ1つ 22.5kg以内に収めれば大会に預けることも可能だ。ただし、ダッフルバッグには競技者識別用のプレートを掲示する必要がある。また、ダッフルバッグが輸送中に濡れる可能性があるので、ジップロックで個包装した。

 

ライディングギア

ウェア:ジャケット、ジャージ、グローブ、ヘルメットリムーバーパームガード防水靴下眼鏡
保護具:ヘルメット、ネックブレースブレストガードエルボーガードニーガードブーツ

 

ギアは、どこまでを不備とみなされるか不明だった。FIA公認やFIM公認では、グローブの小さな穴でも装備品違反の例があったためだ。本来の機能を果たせぬ装備品の着用を許可できないのはごもっとも。つまらないことで失格を受けたくない。肌身に近いものはできる限り新品を揃えた。もはやリスクアセスメント業務だ。

こだわりは、防水靴下と眼鏡。GWの四国である。筍梅雨は避けられないだろうから、快適に走行できるように防水靴下を導入した。雨天でも足は快適で、登山やスキーにも重用している。

先人の勧めで72eyesさんの眼鏡を導入した。視力、深視力、動体視力などを細かく計測して、走行時に最もよく見えるように眼鏡を製作してもらえる。ラインの精査が早くなり、見極める労力がなくなった。素晴らしい。

ヘルメットは、セバスチャン・ベッテルの柄。憧れを携えて。

 

 

2-1-3 出場に必要な整備

日本中を走り回った車両のため、総走行距離が50,000kmを突破している。適切に消耗品を交換しなかったために故障してリタイアしてはあまりに情けない。交換できるものは一通り交換した。

 

主に、クランクシャフトからタイヤまでパワーが伝わる間で一般的に交換可能な部品を交換した。

 

2-1-4 成績に必要な装備

タイヤの方向性には悩んだ。完走重視のピレリ MT21か、成績重視のVee Rubber VRF211F/VRM175か。ライダーの集大成として、速く走るスキルの可視化をしたい。できる限りの成績を追求するために、Vee Rubberを選択した。MT21に比べタイヤ交換が容易なため、ビバークでの交換作業も苦労しにくいだろう。

 

 

2-2 人間

できる限りのパフォーマンスを出すために、身体面と精神面での対策をした。

身体面:BMIの適正化、心肺機能の強化
精神面:過負荷での判断力の練習

 

2-2-1 身体の適正化

競泳選手の高校時代から体重を維持していたが、筋力の低下を認識していた。相対的に脂肪が増えたわけである。食事制限しながら体幹を鍛え、BMI 19.6 体脂肪率11%に戻した。

水泳を再開し、心肺を鍛え直した。高校1年時のタイムにまで戻った。整体に通い、身体のバランスも整えた。現役時代を思い出すほど身体の仕上がりはいい。

 

2-2-2 判断力の維持

大会期間中、昼食含めて十分な休息時間があるとは限らない。長距離の日、修理する夜で睡眠が減る場合もあるだろう。

そこで、試走時に低カロリー下でも判断力を養うために少ない休憩で長距離を走る練習をした。2部山のタイヤで、500km 13.5時間 休憩1回の試走を複数回走破。もちろん、路面の感触やコマ図修正の要否を判断しながらである。

TBI経験者と走り、各SS順位と比較して相対的な順位を把握した。複数のTBI経験者にヒアリングする中で、平均的な速さとコマ図の読解力から、上位半分以内は達成可能な目標だとわかってきた。

 

 

車両、人間の準備は整った。あとは扉を開けるだけだ。

 

 

3 冒険の扉を開ける

GW出勤の可否を迫られた。

 

元は、TBI 2021に出ようとしていた。コロナ禍でGW開催は中止になった。やむを得ない事情である。だが心はたしかに折られた。

TBI 2023に出ようとしてきた。一方、GW出勤は重要なプロジェクトへの参画である。選択権はあるが、すぐに決めなければならない。

人生をかけた旅が、水泡に帰そうとしている。自己対峙、畏れの克服、それらを超えた先でまだ知らぬ感情に出会えると信じて、2年以上維持したモチベーションがある。一方、役立てる社会がある。利己、そして利他。経験のない葛藤に苛まれるうちに経営理念を思い出し、覚悟をした。もう、利他の番だ。

 

感情を整理するうちに、TRIAL RALLY Rd.8 伊吹参加者の感想がよぎった。TBIより素晴らしい、と。日本最高峰に負けない旅を描けるのならば、ライダーの集大成は、自分が自分に贈る旅としよう。達成できるかわからない難易度の、生涯の思い出になる旅を。

サビーヌが贈ったパリダカの物語を、自分なりに綴ろうじゃないか。

 

3-1 約束の地

自ずと、人生を編纂する旅になる。

私とバイクは、琵琶湖なしには語れない。

湖岸道路を北上しながら、何度琵琶湖にそびえる比叡山を認めただろう。湖岸道路を北上しながら、何度やり場のない感情を夜に捨てただろう。私にとって、琵琶湖は故郷だ。ライダー人生の集大成ならば、琵琶湖から始める他なかった。

さらに、私はパリダカに見惚れた一人だ。パリダカの物語に倣い、私も海を渡ろう。

そしてなによりも、ラリーは再集合を意味する。私は千里浜で冒険の扉を認めた。再び行くなら、千里浜しかないだろう。

 

いま、私に贈ろう。

私とバイクの源 琵琶湖を発ち、伊勢湾を経て、約束の地 千里浜を目指す旅を。

さあ、比叡へ。

 

Where the streets have no name, we're still building the burning down love - U2

やがて燃え尽きる愛を約束の地で育んでいる

 

 

3-2 比叡

1府9県 800kmを巡るコマ図。パニアにラリー装備で行く、最大限のラリーツーリング。

DAY-1 琵琶湖→浜名湖
近江から遠江。慣れ親しんだ関西の各地を巡りながら、伊勢を経て、海を渡る。全線舗装路の300km。

DAY-2 浜名湖→千里浜
太平洋から日本海。TRIAL RALLYで培った極上の林道群50kmを繋ぎながら、本州を貫く12時間470km。なお、添付画像では海岸・林道を省いた。

 

日照時間は04:47-19:11。投宿18:00予定なので、マキシマムタイムは12.5時間。撮影を含めて、目標17:00にしよう。

パニアがなくても12時間470kmのコマ図は厳しい。日照時間内に完走できるのだろうか。自分への餞だ。やり遂げよう。

 

 

 

2023/07/16

DAY-1 琵琶湖→浜名湖

06:31 滋賀県草津市 琵琶湖

朝、琵琶湖を発つ。琵琶湖は紛れもなく故郷だ。

 

ホームコースの舗装林道、Rd.1 鷲峰の元になった鷲峰山(じゅうぶさん)、三国越とTRIAL RALLYに馴染みのある場所を回る。三国越からは大峰山まで見えた。

 

 

 

 

11:30 三重県伊勢市 伊勢神宮

オフロードジャージ姿に注目を浴びたお伊勢参り。

「F1レーサーですか?」

滅相もない。

 

14:10 三重県鳥羽市 鳥羽港

伊勢湾フェリー。親友と本土四端を巡った旅を思い出した。

 

 

パリダカの選手は、渡航をどう過ごしたのだろう。胆力ある彼らなら、砂漠の2週間に向けてリラックスしてそうだが、本州縦断だけの自分には緊張すら感じた。

 

 

愛知県民だが初めての渥美半島。海の見せ方に長崎を重ねる一方、丘の見せ方に北海道を重ねた。知らない景色も多い。

 

16:41 静岡県浜松市 浜名湖

10:10:26で完走。太平洋の青さが際立った。

 

DAY-1は、個人的な場所を巡りながら、パリダカの精神を演出した。TRIAL RALLY 5周年記念の一環として2days大会用に企画していたルートを改変しただけあり、目を見張る瞬間ばかり。最後の浜名湖の眺望は、DAY-2への希望を与えるに十分だった。



2023/07/17

DAY-2 浜名湖→千里浜

04:47 太平洋

 

いま、ライダーとして、心技体の一致を果たすべき時が来た。

悔いのない、渾身の走りをしよう。

 

 

山と川の対比を繰り返す。

 

 

30分ごとに平均速度を計算し、走りを制御下に置く。梅雨の影響で入り乱れる流水痕と倒木を乗り越える。

 

 

木曽路はすべて山の中である。

 

 

慣れ親しんだ東濃。パニアで走ると、2ランク下のタイヤの挙動を示す。それでもオンタイムに仕上げる。

 

 

11:18 岐阜県中津川市

最後の林道を抜けて空気圧を上げると、バルブ漏れが止まらない。虫ゴムの調整で済んだ。

ここは太平洋を発って中間地点。狂ったように走り続けた。この先林道も控えていないので緊張が解けて小休止。この日初めて荷物を下ろして座った。

この日、全国各地で38℃を記録した。東濃も酷暑。2Lの水がみるみる減っていく。汗で湿ったジャージを風で冷やすほうがよっぽどいい。また狂ったように走ろう。

 

 

奥飛騨。谷間に浮かぶ入道雲と戯れた。

 

酷道 天生峠。絶壁のつづら折りを重ね、雲に手が届きそうなほど標高を上げていく。白山は望めなかったが、白川郷の原風景に見惚れた。

 

北陸は福光。七夕祭の準備を進めていた。季節を目で感じる風情を再認識した。

空が開け、海が近い。もう慣れた道だが、高揚は変わらない。

 

 

16:23 石川県羽咋市 千里浜

474.13km / 11:36:43で完走。

何分もバイクの上に留まり、終着を噛み締めた。

私の、私による、私のための冒険。山紫水明の日本を貫き、培った技術と能力を注ぎ込んだ。TRIAL RALLYの試走で養ったスキルをすべて出し切った。充足感に溢れ、清々しい。

もう、バイクでやり残したことはないな。

 

 

お疲れ様。一番輝いてるぞ。ここまでありがとう。

 

 

 

 

 

 

 

4 冒険の扉の先へ

4-1 ラリーは人生の縮図

ラリーは、どこへ行くかわからない。

情報と知恵を元に自らの責任で進むべき道を決断するしかない。困難に遭遇すれば解決に努めなければならない。自分の問題であり、援助を前提にできないから。辛くても鼓舞して打破していく。

ラリーは、試される。

人生もそうであろう。日々、選択の連続である。誰かをあてに生きていけない。決めることに迷うことも、決めたことに悩むこともある。それでも人生は進む。あれこれ考えたところでどうせ進むほかないのだ。ラリーは人生の縮図と喩えられる所以はここにある。

「立ち止まるべきときまで走ればいい。むしろ、立ち止まるために走るのだ。ただ、立ち止まっても、留まってはいけない。立ち止まったときには、選ばなかった道のように、本心に基づいて考えよう」と学んだ。

人生観に影響を与えてきたものを繋ぎ合わせた指南が、私にとってのラリーだった。

 

You're already naked, there is no reason not to follow your heart. - Steve Jobs

生まれして無垢なのだから、本心に従わない理由はない

 

 

4-2 おわりに

ラリーは、自己対峙だった。ラリーでは、対峙の恐怖を克服する能力を要する。それは、頭脳、技量、度胸。これらは表層では補えず、確立した思想と精神を養わねばならない。厳しい世界だが、これは真の優しさであろう。

 

ラリーを自分なりに解釈し、全力で取り組んできた。初コマ図が自作という稀有な履歴だが、青年期を懸けて飛び込む価値のある世界と確信して参画してきた。文字通り、時間とお金を費やしてきた。

だが、若い時間は貴重である。ラリーは人生に活力を与えてくれたが、ラリーは私の人生の責任を負わない。

進学のように、もう自動で環境は変わらない。だから、私は時間で区切って人生を新たなステージへ進めると予め決めていた。予想しない結末を迎えたが、追究をやめることに後悔はない。

 

パジェロに憧れ、砂煙を追い、伸ばした手は空を切った。儚いか、これも人生だ。それでもラリーが至極であることに変わりはない。

いま、一線を退く。この珠玉は、自らの糧に、そして未来の種に使おう。

 

 

A challenge for those who go. A dream for those who stay behind. - Thierry Sabine

行く者には試練を。観る者には夢を。